東京23区では直近の家賃が前年に比べて1割上昇
最近では物価の上昇に伴い、家賃も上昇している傾向があります。
そんな家賃上昇を報じるニュースや記事を見て、「家賃を見直すべきではないだろうか」と考えているオーナー様も多いのではないでしょうか。
今回はオーナー様が家賃交渉をする際に役立つ情報をお届けします。
はじめに、家賃上昇の動向を確認しましょう。2024年2月27日付の日経新聞電子版によると、東京23区のマンションの家賃は、前年同月比で1割高くなりました。
同記事では「3カ月連続で最高値を更新し、今後も値上がり基調が続く公算が大きい」と分析しています。
この記事のポイントは、家賃上昇が一時的ではなく、継続的に続くと見ていることです。
空室リスクが低い物件を所有している場合、家賃値上げをしないことで本来得られるはずの利益を逃してしまう可能性があるため注意が必要です。
家賃上昇の流れは全国的に広がっている
ここまでの内容をお読みになって、「家賃が上昇しているエリアは、東京23区など一部に限られるのではないか」と感じるオーナー様もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実際には家賃上昇は全国的に広がっている流れです。
不動産情報サービスのアットホームでは、賃貸マンション・アパートの平均募集家賃を毎月発表しています(対象:全国主要都市13カ所)。
2024年2月の調査によると、マンションとアパートのいずれも全国的に家賃上昇が顕著です。
まず、マンションの平均募集家賃では13都市中、9都市で全面積(シングル向き、カップル向き、ファミリー向き)の家賃が前年同月を上回っています。
一方、アパートでは、全13エリアでファミリー向きの家賃が最高値(2015年1月以降)を記録しています。
平均家賃の上昇率(前年比)を種類別・面積別に見ると地方が上位を占め、家賃上昇の流れが全国に波及していることが分かります。
【マンション家賃上昇率1位】
シングル向き:埼玉県
カップル向き:東京23区
ファミリー向き:福岡市
【アパート家賃上昇率1位】
シングル向き:埼玉県
カップル向き:仙台市
ファミリー向き:福岡市
家賃の値上げは借地借家法で認められた家主の権利
借地借家法の第32条(借賃増減請求権)では、近隣の相場と比べて家賃が安すぎる場合などに、家主が入居者に対して家賃の値上げを要求する権利を認めています。
ただし、家賃の金額は家主と入居者の合意によって決まるという原則があります。
双方で話し合いがまとまらない場合、簡易裁判所で民事調停が行われ、それでも解決しない場合は裁判で争われることになります。
入居者への家賃の値上げ交渉や民事調停・裁判などで、有力な根拠・証拠となることが多いのは「近隣の家賃水準」です。
そのため、家賃の値上げ交渉を考えたとき、家主がまず行うべきは近隣の家賃相場を調べることです。
調査の結果、設定した家賃が近隣の相場よりも低い場合、家主は家賃交渉を行うことができます。
所有する物件の家賃相場を調べる方法
近隣の家賃相場を調べる方法は、「物件情報検索サイト(賃貸ポータルサイト)で調べる」「管理会社に相談する」です。
1つ目の「物件情報検索サイトで調べる」では、対象エリア、物件のタイプ、築年数、最寄り駅からの徒歩分数などを絞り込むことで、大まかな家賃相場を把握することができます。
また、設定条件(バス・トイレ別や階数など)を細かく設定するほど、より正確な家賃相場を把握しやすくなります。
2つ目の「管理会社へ相談する」では、担当者に家賃の値上げを検討している旨を伝えた上で、家賃相場の情報提供を求めると適切な助言を得られるはずです。
上記の2つの方法のうち、まずは物件情報検索サイトで家賃相場を調べてみて、「競合物件よりも家賃の設定が低そうだ」と感じた場合には、管理会社に相談するのが効率的です。
「原状回復ガイドライン」の具体例~貸主の負担とすべきもの~
以下の掲げるものは、一見すると、借主に負担を求めたいところですが、貸主の負担となるものです。
●通常の住まい方で発生するもの
①家具の設置による床・カーペットのへこみ
②テレビ・冷蔵庫などの後部壁面の電気ヤケ
③壁に貼ったポスターなどによるクロスの変色、日照などの自然現象によるクロス・畳の変色、フローリングの色落ち
④賃借人所有のエアコンの設置による壁のビス穴
⑤設備・機器の故障・使用不能(機器の寿命によるもの)
●建物の構造により発生するもの
①構造的な欠陥により発生した畳の変色、フローリングの色落ち、網入りガラスの亀裂
●次の入居者確保のために行うもの
①次の入居者を確保するために行う畳の裏返し・表替え、網戸の交換、浴槽・風呂釜などの取り換え、破損・紛失していない場合の鍵の取り換え
②フローリングのワックスがけ、台所・トイレの消毒、専門業者によるハウスクリーニング(入居者が通常の掃除を行っている場合)、エアコン内部の清掃
いかがでしょうか。
一昔前なら、借主の敷金から精算していた内容も「原状回復ガイドライン」においては、貸主負担とされています。
入居者とのトラブルを回避する家賃交渉のポイント
実際の家賃の値上げ交渉は管理会社が代行することも多いですが、オーナー様自身が「トラブルにならないためのポイント」を把握しておくことも大切です。
これにより、入居者から値上げを拒否された場合でも、適切な対応がしやすくなります。
1つ目のポイントは、「家賃値上げの根拠を丁寧に説明すること」です。
このとき、根拠を示すことに加えて、同物件内の全ての入居者に家賃値上げのお願いをしていることを伝えるのも有効でしょう。
なぜなら、「みんなと一緒なら仕方ないか……」という心境になりやすいからです。
2つ目のポイントは、家賃の値上げに応じたときの「入居者のメリットを提示すること」です。
メリットの例としては、次回の更新料を値引きすることや、入居者に人気のある設備を導入することなどが考えられます。
3つ目のポイントは、家賃の値上げに応じてもらえない場合には、「法的な手続きへ移行する可能性があること」を示唆することです。
ただし、高圧的な交渉になってしまうと、退去してしまうリスクがあります。
管理会社と相談した上でどのように意思表示をするかを慎重に決めましょう。
家賃交渉をするべきか迷ったらまずは管理会社へ
家賃は物件の稼働率に大きな影響を及ぼします。
空室リスクを避けることを何よりも優先する場合、近隣の相場よりもあえて家賃を安く設定する戦略もあるでしょう。
一方で、家賃を値上げしても稼働率がほとんど変わらない場合、本来得られるはずの利益を逃すことになります。
例えば、所有戸数が12戸で全室5,000円の家賃値上げを実現できた場合、家賃収入が年間で72万円、15年で1,000万円以上も増加します。
家賃設定は賃貸経営の生命線であり、とても繊細な要素です。
オーナー様だけで決断されずに、管理会社の参考意見を聞いた上で判断されることをおすすめします。